「歯並びが後戻りするのは意志が弱いから」じゃなかった。犯人は”舌のクセ”だった件
歯科矯正を終えた友人が、ある日ぼそっとこう言いました。
「せっかく100万円かけて歯並び治したのに、また前歯が出てきた気がする…私、寝てるとき歯を噛みしめてるのかな」
その話を聞いて、私は思わず「それ、歯ぎしりじゃなくて“舌”が犯人かもよ」と口を挟んでしまいました。実はこれ、矯正治療を経験した人の多くがぶつかる「あるある」なんです。そして原因の多くは、本人も気づいていない舌や唇の使い方のクセにあります。
今日はそのクセを直すトレーニング、**MFT(口腔筋機能療法)**について、できるだけわかりやすく、ちょっと面白おかしく解説していきます。読み終わる頃には「え、あの子どものポカン口、放っておくとまずいやつだったんだ」と気づくはずです。

そもそもMFT(口腔筋機能療法)って何?
MFTは英語の Myofunctional Therapy の略で、舌・唇・頬まわりの筋肉、いわゆる口腔周囲筋のバランスを整えるトレーニングのことです。
ここで大事なポイントがひとつ。MFTは歯を物理的に動かす治療ではありません。矯正装置が「歯を正しい位置に運ぶ」役割だとしたら、MFTは「その歯が動いた先で、ちゃんと居続けられるように筋肉の環境を整える」役割を担っています。
イメージとしては、矯正治療が「引っ越し業者」、MFTは「新居の住み心地を整えるリフォーム」みたいなものです。せっかく引っ越しても住み心地が悪ければ、また元の場所に戻りたくなりますよね。歯も同じで、筋肉のバランスが悪いままだと、時間とともにじわじわ後戻りしてしまうのです。
歯並びというのは、実は綱引きのような力関係で成り立っています。
- 内側から押す力:舌
- 外側から押し返す力:唇・頬
この力が均衡しているうちは歯はきれいな位置に収まりますが、舌の力が強すぎたり、逆に唇の力が弱かったりすると、歯列はどんどん歪んでいきます。MFTはこの「綱引きの均衡」を取り戻す作業だと考えるとしっくりくるはずです。
こんな癖、心当たりありませんか?チェックリスト
MFTが必要かどうかを判断する手がかりとして、以下のような癖や症状がないか、家族や自分自身をちょっと観察してみてください。
食べ方・飲み込み方
- 食べ物をあまり噛まずに丸飲みしてしまう
- 食事中にくちゃくちゃと音が鳴る
- 飲み込むときに舌が前歯を押し出している感覚がある
- 食べこぼしが口の端から出やすい
お口まわりの習慣
- 気づくと口がぽかんと開いている(口呼吸)
- 指しゃぶりや唇を噛むクセが長年抜けない
- 舌が上の歯の裏ではなく、下の方に沈んでいる(いわゆる低位舌)
矯正治療との関係
- 矯正した歯並びが最近また崩れてきた気がする
- 矯正の効果がなかなか出ない、進みが遅いと感じる
その他
- サ行・タ行・ラ行の発音がどうも聞き取りにくいと言われる
- いびきをかく、あるいは眠りが浅い
- 舌の裏のひも(舌小帯)が短くて、舌をベーっと突き出しにくい
3つ以上当てはまった方は、一度歯科医院で口腔機能のチェックを受けてみる価値があります。
自宅でできる代表的なMFTトレーニング
専門家の指導のもとで行うのが基本ですが、どんなことをするのかイメージを掴むために代表的なメニューを紹介します。
| トレーニング名 | ねらい | やり方のイメージ |
|---|---|---|
| スポットポジション | 舌の定位置を覚える | 上前歯の裏側にある膨らみ(スポット)に舌先をキープする |
| ポッピング | 舌を持ち上げる筋力アップ | 舌全体を上あごに吸いつけ、口を大きく開けて「ポンッ」と離す |
| ボタンプル | 唇の力を鍛える | 紐付きボタンを唇と歯の間に挟み、引っ張られても唇の力で耐える |
| スラープ&スワロー | 正しい飲み込み方を習得 | 舌を上あごに当てたまま、口を開けた状態で水を飲み込む練習 |
| あいうべ体操 | 口全体の筋肉を活性化 | 「あ・い・う・べ」と大きく口を動かす、口を閉じる力を養う定番メニュー |
| ポスチャートレーニング | 安静時の姿勢を定着させる | 舌をスポットに置き、唇を閉じて鼻呼吸をキープする習慣づけ |
「ポッピング」は特に子どもに人気で、音を立てる遊び感覚があるので飽きずに続けやすいという声をよく聞きます。逆に「あいうべ体操」は大人にも取り入れやすく、テレビを見ながらでもできる手軽さが魅力です。


続けるとどうなる?気になる効果
MFTをコツコツ続けると、口の中だけでなく見た目や体調にまで嬉しい変化が出てきます。
- 歯並びが安定する:舌と唇の力のバランスが整うことで、矯正後の後戻りリスクがぐっと下がる
- 鼻呼吸に切り替わる:口の乾燥が減り、虫歯・歯周病・口臭のリスクが下がる。ついでに風邪もひきにくくなるとも言われている
- 顔つきがシュッとする:表情筋が鍛えられ、口元が引き締まる。「なんか最近顔つき変わった?」と言われるかも
- 発音がクリアになる:サ行・ラ行がはっきりして、滑舌の悩みが軽くなる
- 食事の質が上がる:しっかり噛んで、正しく飲み込めるようになるので消化にも優しい
見た目の変化は特にモチベーションになりやすいポイントです。「歯並びのため」だけでなく「顔つきのため」と捉えると、続ける理由がひとつ増えますよね。

「効果ないかも」と思う前に知っておきたい注意点
MFTでよくある挫折パターンが「すぐに効果が出ないから諦めてしまう」というものです。ここは正直にお伝えしておきます。
即効性は期待しないこと。 長年かけて身についた舌や唇のクセを書き換えるわけですから、数ヶ月〜1年以上の継続が必要になるのが一般的です。ダイエットや筋トレと同じで、地道な積み重ねがものを言います。
姿勢も意外と重要。 猫背のままだと口まわりの筋肉の使い方にも影響が出るので、背筋を伸ばした状態でトレーニングするのがコツです。
自己流はNG。 ネット動画だけを見て見よう見まねで始めると、逆に変なクセがついてしまうこともあります。定期的に歯科医院でチェックしてもらいながら進めるのが安全です。
鼻づまりがある人は要注意。 そもそも鼻が詰まっていると鼻呼吸への切り替えが物理的に難しいので、先に耳鼻科での治療が必要になるケースもあります。
続けるコツとしては、歯磨きやお風呂の時間など「すでにある習慣」にトレーニングをくっつけてしまうこと、そしてカレンダーやアプリで記録をつけて達成感を可視化することが効果的です。子どもの場合は、保護者が一緒にやってあげると継続率がぐっと上がります。
費用はどれくらい?保険は使える?
気になるお財布事情についても触れておきます。
- 自費診療の場合:1回あたり3,000円〜10,000円程度が相場。矯正治療のパッケージに含まれていることもあれば、別途検査料がかかることもあります
- 保険が使えるケース:15歳未満(または18歳未満)で「口腔機能発達不全症」、高齢者で「口腔機能低下症」と診断された場合は、保険診療の範囲でトレーニング指導を受けられることがあります
- 医療費控除の対象になることも:咀嚼機能の改善など医療目的と認められれば、確定申告時の医療費控除に含められる可能性があります
保険適用の可否は診断名や年齢によって変わるので、気になる方はかかりつけの歯科医院で確認してみてください。
まとめ:歯並びの「土台」を整えるという発想
矯正治療はゴールではなく、あくまでスタート地点。せっかく整えた歯並びを長くキープするためには、その土台となる舌や唇の筋肉のクセを見直すことが欠かせません。
冒頭で紹介した友人のように「また歯並びが崩れてきた気がする…」と感じている方は、歯ぎしりや意志の弱さを疑う前に、一度自分の舌がどこにあるか意識してみてください。もしかすると、答えは頬づえをついた瞬間や、テレビを見ているときの“ぽかん口”の中に隠れているかもしれません。
まずは歯科医院で口腔機能のチェックを受け、自分のクセを客観的に知ることが、健やかな口元への最初の一歩です。ぜひ中川区丸米町のはれのひ歯科に!

